遺言執行(2019年7月1日施行後の相続法改正)

遺言執行者とは?

 遺言執行者(遺言執行人)とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことです。

 遺言執行者の任務は、「法務局での名義変更手続き」や「相続財産を調査して目録を作る」といった、遺言の内容を実現するための一連の作業になります。遺言の内容を実現するための権限を持ち、実際に行動する人が遺言執行者ということです。

 

 民法(2019年7月1日施行前の相続法改正)は以下のとおり、規定しています。

 

(遺言執行者の任務の開始及び権利義務)

第1007条第2項

 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされ(法第1012条第1項)、遺言執行者の職務は遺言の内容を実現することにあり、必ずしも相続人の利益のために職務を行うものではないことが明確化された。

また、遺言執行者がある場合は、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができるとされ(同条第2項)、遺言執行者の権利義務が明確化された。

この改正後の規定は、改正法の施行の日(令和元年7月1日)前に開始した相続に関し、同日以後に遺言執行者となる者にも適用するとされた(改正法附則第8条第1項)。

( 遺言の執行の妨害行為の禁止)

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができないとされているところ(法第1013条第1項)法第1013条第1項の規程に違反してした行為は、無効になることを明確にしつつ、ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができないとして(同条第2項)、善意者保護規定を設けている。

 また、これらの規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げないとされ(同条第3項)、相続債権者を含む相続人の債権者については、その適用がないことが明確化された。この相続債権者等による相続財産についての権利行使としては、相続債権者等による差押え等の強制執行等が該当する。

この改正後の規定は、改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され、同日前に開始した相続については、なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。

(特定財産に関する遺言の執行)

遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が法第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとされた(法第1014条第2項)。

また、法第1014条第2項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従うとされた(同条第4項)。

なお、遺言執行者は、一般に、法定代理人であると解されており、これは、改正前後で異なることはない。

これにより、不動産を目的とする特定財産承継遺言がされた場合に、遺言執行者は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときを除き、単独で、法定代理人として、相続による権利の移転の登記を申請することができることとなる。

おって、相続人が対抗要件を備えることは、遺言の執行の妨害行為(法第1013条第1項)に該当しないため、当該相続人が単独で、相続による権利の移転の登記を申請することができることは、従前のとおりである。

 

この改正後の規定は、改正法の施行の日(令和元年7月1日)前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については、適用しないとされた(改正法附則第8条第2項)。

(特定財産に関する遺言の執行)

第1014条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 

(改正前の民法)

第4節 遺言の執行

(遺言書の検認)

第1004条  遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

2  前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。

3  封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

(過料)

第1005条  前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。

(遺言執行者の指定)

第1006条  遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

2  遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。

3  遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。

(遺言執行者の任務の開始)

第1007条  遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。

(遺言執行者に対する就職の催告)

第1008条  相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。

(遺言執行者の欠格事由)

第1009条  未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

(遺言執行者の選任)

第1010条  遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

(相続財産の目録の作成)

第1011条  遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。

2  遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

(遺言執行者の権利義務)

第1012条  遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2  第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)

第1013条  遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

(特定財産に関する遺言の執行)

第1014条  前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。

(遺言執行者の地位)

第1015条  遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。

(遺言執行者の復任権)

第1016条  遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。

2  遺言執行者が前項ただし書の規定により第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、第105条に規定する責任を負う。

(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)

第1017条  遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

2  各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

(遺言執行者の報酬)

第1018条  家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。

2  第648条第2項及び第3項の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。

(遺言執行者の解任及び辞任)

第1019条  遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。

2  遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

                                      (以上改正前の民法)

 

(解説)

3 経過措置

改正法の附則第8条により、以下のように定められている。

(遺言執行者の権利義務等に関する経過措置)

第8条 新民法第1007条第2項及び第1012条の規定は、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に遺言執行者となる者にも、適用する

2 新民法第1014条第2項から第4項までの規定は、施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については、適用しない

3 施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の復任権については、新民法第1016条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

  

 このように遺言執行者を遺言書の中で指定しておくと(特に公正証書遺言)、遺言内容が執行されるために非常に便利となります。

 遺言執行者には相続人の1人を指定してもよいことになりますが遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定(第1006条))、一般的に遺言執行者には、弁護士や司法書士が指定されることが多いことは紛争が生じないように法的な判断ができる法的専門家が要望されているからです。

 また、登記手続きを伴う不動産の遺贈の登記をするためには、通常は法定相続人全員の印鑑及び印鑑証明書が必要ですが、司法書士を遺言執行者に指定しておくと、遺言執行者の印鑑と印鑑証明書で登記手続きができることになり、いたずらに、遺言に不服のある法定相続人の捺印、印鑑証明書を求める必要がなくなります。

(遺言執行者の地位)として、民法は、遺言執行者は、相続人の代理人とみなす(第1015条 )と規定していましたが

(遺言執行者の行為の効果)

第1015条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。と、改正されました。

 

しかし、金融機関、法務局などの対応において、自筆遺言の場合、必ずしもその地位を認めてくれない場合があります。そこで、やはり、公正証書遺言の作成を薦めるゆえんでもありますし、専門家にご依頼をされることをお薦めするゆえんでもあります。

そうでなければ、遺言を書いたと安心していたとしても、改めて相続人の委任状等を要求する場合がありますので、気をつけましょう。