相続登記と家庭裁判所の審判?どうすれば登記できるの?

相続分の譲渡

 家庭裁判所での遺産分割の審判書によると、調停の途中で相続人である被相続人の兄弟相続人9人(相手方)中の3人が被相続人の配偶者(申立人)に相続分を譲渡したため、調停の手続きから排除するとの決定が出ておりました。審判書の相手方は残りの6人の相続人となっていました。 このような審判書での相続登記の依頼を受けた場合、登記申請の登記原因証明情報として、何を添付すればよいか?という疑問をお持ちになったことがあると思います。
相続分の譲渡の性質、方式等について 相続分の譲渡とは、積極財産はもとより消極財産をも含む包括的な遺産全体に対して共同相続人の一人が有する包括的持分権ないし相続人たる地位を譲渡することであり、相続分の譲渡があったときは、譲渡人が有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移るとされています(最高裁判所判例解説50年度・510 ページ、民法905条参照)。 また、「相続分の譲渡」とは、積極財産と消極財産とを包含した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分(包括的持分)の移転をいいます(参照:最三小判平成13年7月10日(民集55巻5号955ページ))。よって、共同相続人の一人への譲渡は、「相続放棄」や「遺産分割」に類似する機能が生まれるのです。 また、相続分の譲渡は民法905条1項に「共同相続人の一人が分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは」と規定されているとおり、遺産分割前に限ってすることができます。これは、遺産分割により相続財産の帰属が確定した後は、そもそも相続分という概念がなくなるからだと考えられます。なお、同条は「第三者に譲り渡したとき」とされていますが、この第三者には共同相続人以外の者に限らず、共同相続人であってもよい(中川淳「相続法逐条解説上」277ページ以下)とされています。 登記手続については、相続分の譲渡が行われる場合として、共同相続人に対して行われる場合と、共同相続人以外の第三者に対して行われる場合があります。また、譲渡のタイミングとして、いまだ共同相続の登記がされていない聞にされる場合と、共同相続の登記後にされる場合とが考えられますが、共同相続人以外の第三者に相続分の譲渡をした場合は、いったん共同相続の登記を経由した上でないと、譲受人名義の登記をすることができないとされています(登記研究728号、登記研究491号107ページ)。
そして、共同相続人が共同相続登記がされる前に相続分の譲渡を受け、遺産分割協議の結果その不動産を相続したときは、譲受人は「相続」を原因として直接自己名義に相続登記を申請することができるとされています(昭和59年10月15日民三第5195号民事局第三課長回答・先例集追Ⅶ449頁、登研444号99頁))。

1 共同相続人A・B・C・DのうちA・B・Cがその相続分をDに譲渡した場合は、被相続人名義の不動産につき、A・B・Cの印鑑証明書付相続分譲渡証書を添付して、Dから、D1人を相続人とする相続登記を申請することができる。 2 共同相続人A・B・C・DのうちA・Bがその相続分をDに譲渡し、D・C間で不動産はDが取得する旨の遺産分割協議が成立した場合には、被相続人名義の不動産につき、A・Bの印鑑証明書付相続分譲渡証書及びD・C間の遺産分割協議書を添付して、D1人からD1人を相続人とする相続登記をすることができる。

また、共同相続登記後にする相続分の譲渡に係るは、「相続分の売買」「相続分の贈与」を登記原因として登記の申請をすることができるとされています(登記研究506号148ページ)。 ところで、相続分の譲渡は、口頭でも可能な不要式行為でありますが、相続分の譲渡に基づく登記を申請する場合は、不動産登記手続が書面主義を採用していることから、共同相続人間で相続分の譲渡が行われた場合において、相続を原因とする所有権移転登記をするときは、登記申請書に相続を証する書面の一部として相続分譲渡証明書を添付しなければなりません。この場合において、譲渡人が作成した相続分譲渡証明書が私署証書であるときは、譲渡人が作成した信ぴょう性及びその法律行為が有効に成立していることを担保するために、作成者である譲渡人の印鑑証明書の添付を必要としています。 相続分譲渡に関する遺産分割調停調書を添付した相続による所有権移転登記申請については、「家事調停において遺産分割協議をした子の一人が『その相続分を他の相続人に譲渡し、その共有者であることを認める』旨の記載のある調停調書を添付して、この子を除いた他の共同相続人に直ちに相続による所有権移転の登記をすることができる」(昭和40年12月7日民甲第3320号民事局長回答)としています。これは、その相続分の譲渡が遺産分割調停という公的手続の中で行われており、その合意が常にすべて無効となるものではなく、それ自身が内容を裁判所書記官という権限のある者が証明していることから、その書面の信ぴょう性及び法律行為の有効性の担保が十分であるから、何ら問題はないと言えます。 本件は、「相続人である被相続人の兄弟相続人9人(相手方)中の3人が被相続人の配偶者(申立人)に相続分を譲渡したため、調停の手続きから排除する」という遺産分割調停審判書が添付されていますので、この登記申請の登記原因証明情報は審判書及び確定証明書のみでよいと考えます。

なお、甲不動産の所有権の登記名義人であるXが死亡し、その法定相続人の全員(A、B及びCの3名)を登記名義人とする相続による所有権の移転の登記がされている場合において、①A、B及びC間でCの相続分の全部をA及びBに対して譲渡する旨の調停がされ、その後、②AB間で甲不動産をAの単有とする旨の遺産分割協議が行われたときは、①の調停調書及び②の遺産分割協議書を添付情報とし、遺産分割を登記原因として、B及びCの持分の全部をAに対して移転する所有権の移転の登記をすることができるかどうかについて、相続分の譲渡による所有権の移転の登記をすることなく、遺産分割を登記原因として、直接、B及びCからAへの所有権の移転の登記をすることができるとされています(登記研究787号)。
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